日揮パラレルテクノロジーズ株式会社 代表取締役社長 阿渡 健太
1986年生まれ。神奈川県横須賀市出身。生まれつき両上肢に障害がある。2024年2月、日揮パラレルテクノロジーズ株式会社・代表取締役社長に就任。2017年からパラテコンドーの日本代表強化指定選手となる。
COMPANY
日揮パラレルテクノロジーズ株式会社
プラント建設事業などを手掛ける日揮ホールディングスの特例子会社。障害者を「IT戦略人材」として雇用し、グループ企業内のIT・DX化を支援する事業を展開している。
いちばん厄介なのは、社会でした
「手がないから、君にはできないよね」
「障害があるから、この仕事は君に任せられない」
何度、こんな言葉を耳にしてきたことか。
障害者雇用率達成企業は50・1%。対象企業の半数が法定雇用率2・3%を下回っています(いずれも2023年時点)。そこには、「障害者に仕事はできない」という健常者の思い込みがあるのではないでしょうか。
私は、先天性の両上肢障害です。生まれつき左腕の手首から先、右腕の肘から先がありません。ですが、自分のことを障害者だとは思っていません。工夫すれば、いろいろなことが一人でできます。でも、障害があるというだけで見向きもされない。
そんな社会を私は変えたいのです。
申し遅れました。健太と申します。パラレルテクノロジーズ株式会社(以下、JPT)の代表を務めています。当社は、主にプラント建設を手掛ける日揮ホールディングスの特例子会社です。特例子会社制度とは、子会社が一定の要件を満たす場合、特例としてその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして、実雇用率を算出できる制度です。
JPTでは日揮グループ企業のIT業務支援を行っています。日揮が蓄積してきた膨大なデータを活用することで、作業工数や人件費の削減が可能となります。そのIT化のお手伝いをしています。たとえばWeb系では、独身寮の食事予約や寮費などが閲覧できるアプリ、建設現場のTo Doと画像データを一括管理するアプリなどを開発しました。
AI系では、鯖の陸上養殖事業における「魚サイズ推定AIモデル」の構築などを手掛けています。最近では、ユニティ・テクノロジーズ社が開発したゲーム開発プラットフォーム「」を活用した、XRコンテンツ(プラント研修ゲームやメタバース資料館)なども制作しており、遂行した案件は大小合わせて100を超えています。
当社の特徴は、障害者を「IT戦略人材」として雇用している点です。日揮の主軸事業であるプラントエンジニアリング業界では、IT導入の遅れや人材不足が課題となっていました。そこで、障害があることで働く機会を得られていないエンジニアを受け入れて、日揮グループ企業に生じるITに関する困りごとへの対応を特例子会社で請け負えば機能すると考えたのです。
2024年で会社を設立して3年になります。5人だった従業員は37人に増え、売上高も約6倍に成長しました。そして、JPTを含む日揮グループ4社で法定雇用率を上回る2・46%を達成しています(2023年6月時点)。
また、経済産業省が主導している「イノベーション創出加速のための企業における『ニューロダイバーシティ』導入効果検証調査事業」の先進取り組みとして、JPTの事例が紹介されるなど、社会にも認知されるようになってきました。この3年間で精神・発達障害者、いわゆる〝未開拓人材〟に対する雇用を生み出し、新しい障害者雇用のあり方を社会に示すことができたのではないかと思います。
私たちは、「障害の有無に関わらず、全ての人が対等に働ける社会の実現を目指す」をミッションに掲げ、日々その方法を模索しています。
まずは、私たちの取り組みを知ってください。そして一緒に、働きたくても働けない障害者を減らしていきましょう。
「できること」と「できないこと」が、ハッキリしているだけ
私は、日揮株式会社(現・日揮ホールディングス株式会社)で障害者雇用を含む中途採用を担当していました。ですが、年間の採用活動を通して、障害者の合格者は一人もいませんでした。その背景には、大企業の手厚いセーフティーネットがありました。たとえば、日揮では年単位での休職期間が設けられており、その間も手当が保障されます。そのため、安定して働けるかどうかわからない精神・発達障害者の雇用がリスクとしてとらえられ、採用に至らないケースが少なくなかったのです。せっかく、よい人材がいるのに、自社の充実した福利厚生があるがゆえに障害者を採用できなかったのです。
そんな状況のなか、2019年10月に日揮がホールディングス化し、日揮ホールディングス株式会社、日揮グローバル株式会社、日揮株式会社の3社に再編されました。これにより障害者が偏在化し、これまで見えていなかった日揮グローバルの障害者雇用率の低さが露呈します。海外の仕事が中心である日揮グローバルでは、英語ができることが採用の必須条件となっており、それが障害者雇用のハードルとなっていました。
この問題を解決するために、特例子会社をつくり、グループで法定雇用率を満たす案が挙がりました。しかし、障害者を雇用してどんな仕事を担ってもらうかが課題でした。
そんなとき、IT特化型の就労移行支援事業所があることを耳にします。見学してみると、そこには高いスキルを持ったITエンジニアがたくさんいることがわかったのです。ちょうどそのころ、日揮ではIT・DX化の課題が山積していました。この人たちなら日揮で活躍できるのではないか。そんな仮説を立て、特例子会社の設立に向けて本格的に動き出しました。まずは、IT特化型の就労移行支援事業所と連携して、1カ月間インターンとして働いてもらい、次のような仕事をお願いしました。